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「雪の魔女の洞窟」攻略紀行(その6)

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運命のくじ引き

 

リサ(ダイアンナ)「前回、あたし、リサ・パンツァは自分の体に倒したはずの〈雪の魔女〉シャリーラの心魂が憑依している事実に気がついた……でいいよね」

 

リバT『プレイヤーのクイーン・ダイアンナには、はっきりと伝えましたね。でも、キャラクターのリサさんはどうでしょう? シャリーラ魂は、リサさんの心理的抵抗を弱めるために、時至るまで潜伏し、時間をかけて魂の融合侵蝕を推し進めようと企んでいます。そのために、リサさんが事の真相に気付きかけた瞬間に、心に干渉して記憶や違和感を一時的に無意識の領域に沈めようとして来ます』

 

リサ「面倒な相手だね。意志の力でシャリーラを排除しようとしても、こちらが存在に気付きかけた瞬間に忘れさせられてしまうわけかい」

 

リバT『そうです。抵抗しようとするには、自分の中の異物に気づく必要があるわけですが、心の免疫機能を麻痺させる恐ろしいウイルスのようなものとご理解ください』

 

リサ「気が付けば、心が蝕まれて、自分とシャリーラが同一の存在だと認識させられてしまう。そうなると、自ら望んでシャリーラであることを受け入れてしまうということか。獅子身中の虫、といったところだね」

 

リバT『その心理状態をクイーンにどう演じていただけるかが、ここからの話の肝なんですが』

 

リサ「ディレクターの意図は大体、分かったよ。逆に言えば、リサはシャリーラの知識を無意識ながらも使えるってことだね。シャリーラはリサと一体化しようとして、リサに自分の知識を植え付けようとしている。それが両刃の剣となって、自らに対して振るわれる可能性もあるってことだ」

 

リバT『その辺のリサさんの心の戦い、葛藤描写をどうするかは基本的にお任せします。こちらから要望があれば伝えますが』

 

リサ「いいだろう。シャリーラがあたしを乗っ取ろうというなら、逆にあたしが乗っ取り返して力を得るって道もあるわけだ。リサ・パンツァは負けない。このあたしに、ケンカを吹っかけたことを必ず後悔させてやる」

 

スタッブ(アスト)「で、前回の大事な話は、それだけじゃあるまい」

 

リバT『ええ。エルフのレッドスウィフト(新訳)、もしくは〈赤速〉(旧訳)、当リプレイでは独自に赤燕(赤ツバメ)と表記する彼と、ドワーフのスタッブが仲間に加わりました。スタッブの方は、アストさんに担当してもらいます』

 

スタッブ(アスト)「魔剣の精霊アス・ラルとは一人二役になるが、後でスタッブと別れた際に、アス・ラルが目覚めることにしよう。大方、リサへの憑依融合の邪魔になり兼ねないから、シャリーラ魂がアス・ラルを一時的に封印したのだろう、と後付けで設定してもいいし」

 

リバT『確かに、アス・ラルがシャリーラ魂のことをリサさんに警告する可能性がありますね。リサさんの異変にいち早く気付きかけたのも、アス・ラルでしたし』

 

スタッブ「だけど、わしは魔術のことなど鈍感だから、リサ殿の異変には気付くよしもない。ただ、前回の話の流れだと、『幽霊でも見たかのように、顔面蒼白』なリサ殿を心配するセリフで終わっていたな」

 

リサ「『わたしは〈雪の魔女〉シャリーラだから』と言いかけて、ハッと気づいて言い淀むんだったね。その後の心の葛藤が行われること数秒、あたしの気づきも決意も無意識下に沈められて、あたしはいつもと変わらない平静さを取り戻す。あり得ない、と呟いてから額に手を当てて付け加える。『〈雪の魔女〉は確かにあたしが倒したんだけど、このオーブは彼女の魔力が込められていたから、もしかして復活するような気がしたんだ。考えすぎだよね、ハハハ』と答えて、前回の辻褄合わせをする(笑)」

 

リバT『だったら、それに応じて、赤ツバメさんがこう言いましょう。「〈雪の魔女〉が復活だって? あり得ないだろう。もしも復活するなら、【服従の首輪】が反応するはずだ。そうなったら、我々は奴隷に逆戻り。そういう気配は感じないのだから、心配する必要はないさ」と楽観的に言います。なお、このエルフはスロムさんと同様、判断が裏目に出ることが多いです(笑)。決して無能な人物ではないのですけどね。主人公の有能さを引き立たせるために、あえて損な役回りで演出されている感じです』

 

スタッブ「では、わしもそれに同調しよう。赤ツバに賛同するのは好かんが、確かにわしの首輪も反応せん。大方、戦い疲れで神経過敏になっているのだろう。無理もない。リサ殿は〈雪の魔女〉と戦って、心身も相当に消耗したのだからな。だが、安心せい。この先は、わしがリサ殿の分まで戦ってやるからな」

 

リバT『では、辻褄合わせタイムを終了して、話を続けます。前回、T字路を左に進んで、オーブイベントをクリアしたあなたたちは、その後、右に2回、折れて別ルートとの合流地点に到達します(166)。通路は左に進んで、途中でヘビの形をした取っ手のある箱を見つけます』

 

リサ「お宝かしら。スタッブ、開けて」

 

スタッブ「ええ? こんな、いかにも罠がありそうな箱をわしに開けろと? わしは戦士であって、箱を開けるのは盗賊の仕事と昔から決まっておる。しかし、ここにいるのは戦士のわしと、英雄剣士のリサ殿、そして野伏(レンジャー)っぽいエルフ。だったら、開けるのはエルフの仕事ではないか?」

 

リサ(あたしは盗賊だけど、イヤな予感がするから、志願しない方がいいのよね)

 

リバT『「それなら公平にくじ引きで決めよう」とエルフさんは提案して、さっさとくじを作ります。1Dを振ってください』

 

リサ「1〜2だと、運が悪い結果なのよね。(コロコロ)よし、6が出たわ」

 

リバT『では、箱を開けるのは赤ツバメさんです。彼は器用に罠をすり抜け、アイテムの【エルフのブーツ】をゲットしました。誰がそれを履くかで、またくじ引きをすることになりました。もう一度、1Dをお願いします』

 

リサ「(コロコロ)2か。残念な結果かな」

 

リバT『ブーツを履くのはスタッブさんに決まりました』

 

スタッブ「わしか? ドワーフが【エルフのブーツ】なぞ履いていいのか?」

 

リバT『音をたてずに歩ける優れものですね』

 

リサ「盗賊向きの装備なのに残念」

 

リバT『そう思うかもしれませんが、実は結果的にラッキーだったんですよ。前回、リサさんは攻略ミスをしていて、もしもここで【エルフのブーツ】を入手していれば、危うく攻略不能に陥るところでした』

 

リサ「えっ、どうして?」

 

未来視の話

 

リバT『まず、前回のミスですが、魔法のフルートを捨ててしまったことが拙かったです。うっかりしていましたが、このフルートは銀でできていて、銀製品は終盤で必須アイテムになるのですよ』

 

リサ「ああ、攻略メモには『銀製品が必要』とは書いてあるけど、フルートが銀だってのは書いていない」

 

リバT『最初に入手したパラグラフ194番では「銀のフルート」と明記されていますが、攻略記事を書いているときも、その材質が重要だとは気付くことなく、スルーしてました』

 

リサ「だけど、他にも銀製品って入手できるよね」

 

リバT『フロストジャイアントのところで、銀の指輪が入手できますが、あれを付けると破格のペナルティですからね。決してお勧めできません。装備はしないけど、袋に入れて持って行くということができればいいのですが、どうもそういう話の流れではなさそうですし、銀製品はこの先、別のところで調達しなければいけないでしょう』

 

リサ「調達すればいいじゃないか」

 

リバT『そうするには、【エルフのブーツ】が邪魔になるんですね。銀製品を持っている敵を倒さずに、安全にスルーしてしまいますから。そのことに気づいたのは、いつもいいねを頂いている御方のこの記事を読んでのことです。ゲームブック攻略のための面白い切り口での考察がいい勉強になります。改めて感謝申し上げるとして』

 

 自分でも攻略メモやフローチャートを作ってはいるのですが、改めて攻略記事を書くに当たって、細かいところはやはり見落としなんかが露見するわけですね。そんな際に、人さまの攻略記事なんかを読んで、気づくところも少なからずあって、時おり参考にさせてもらう、と。

 こういう同好の士と、Win Winのやり取りができたら嬉しいなと思いながら、最近、コメントで応対してもらったりしたブログ主です。

 さておき、このくじ引き宝箱。危険を避けるためにスルーすることもできず、完全に運まかせになる仕様。最初に1Dを振って、3択の幸不幸が訪れます。

 

  • 1〜2:運悪く、主人公が箱を開けることに。運マイナス1。さらに毒ヘビの罠にハマって、技術点マイナス1、体力点マイナス4の手痛いダメージを被ることに。本リプレイのリサは盗賊設定ですが、ゲームブックの主人公はそういう個人設定はありませんので、罠を避けようがないわけで。せめて運だめしで回避できればいいのに。
  • 3〜4:くじに当たったのはスタッブ。彼も毒ヘビの罠にハマるのですが、ドワーフは頑丈な種族なので、割と平気。まあ、ダメージは受けているんでしょうけど、能力データがあるわけでもなく、数字上の実害はなし。ここで、すかさず、エルフさんがナイフを巧みに使って、ドワーフの毒抜き治療をしてあげる辺り、口論はしても仲はいいなあ、と感じさせてくれます。
  • 5〜6:当たりの結果ですね。「エルフの本能が罠を教えてくれる」という理由で、見事に罠を回避して、お宝ゲットする赤ツバメ。そして、箱から入手した【エルフのブーツ】がいかに貴重なお宝か、嬉しそうに蘊蓄解説して、持ち主を決めるために、またもくじ引き提案。自分がゲットしたのだし、エルフゆかりのアイテムなんだから、自分が所有権を主張してもいいのに、いい奴ですよ、彼。

 

 ブーツを手に入れるためのくじ引き結果は、以下の3パターン。

 

  • 1〜2:スタッブが当たり。嬉しそうにクスクス笑うドワーフ。ここでのスタッブは、子どもになったかのようなはしゃぎ様で、実は年若いキャラなのか、と思わせてくれます。ドワーフって髭面のせいで、ついついおっさん口調で喋らす癖というか、世の風潮がありますが、ホビット映画のキーリとかフィーリぐらいの若手なのかも、と思わせた一瞬。
  • 3〜4:エルフが当たり。にっこり微笑んで、軽やかに歩く彼を、嫉妬交じりの視線で見る主人公とスタッブです。まあ、嫉妬と言っても悪感情ではなくて、「ちょっといいなあ、うらやましいなあ」程度のものですけどね。羨望と言った方がいいかも。
  • 5〜6:主人公が当たり。ラッキーで運点が1点増えます。まあ、本リプレイでは攻略ミスしたので、ここで当たらなかったことで、ホッと胸を撫でおろしたのですが。ダイス目では嘘をつかない、記事で書いた事実は覆さない、の自己ルールがございますので、「魔法のフルートは捨てなかった」という最適解に書き換えようかな、という誘惑にも駆られましたが、ミスからの挽回、ミスから生まれるリアルな物語(下手するとグダグダ展開になる危険もありますが)を重視して、書き換えはなし。と言うか、「フルートが銀だということを、明確に認識していなかった」ので、捨てていなくても、その場面でフルートを使おうとは思わなかったかも。まあ、そこに至れば、もう一度、フルートの話をするつもり。

 

リサ「結果として、【エルフのブーツ】を入手できなくて、良かったという話か。目先のラッキーではなく、大局的視点からの僥倖を感じたってことだね」

 

リバT『アイテムを入手したからこそ、不利になるとか、攻略失敗になる仕掛けって、この頃からあったんですね、リビングストンさん。さて、では、ついでに今回、通らなかった分岐の右ルートを確認しましょうか』

 

リサ「では、物語上の演出をするか。【エルフのブーツ】を履いて、はしゃいでいるスタッブに、ちょっと先走るのはやめてくれ、と頼みます」

 

スタッブ「ん? どうした、リサ殿?」

 

リサ「この辺りで、少し休憩していかないか?」

 

スタッブ「おっと、そうだな。いかに英雄殿でも、〈雪の魔女〉との激闘の後では疲れも溜まろう。わしらドワーフはそうそうへこたれんが、人の乙女の身では休憩を要するのも、やむを得ん。エルフ、いいか?」

 

リバT『確認を求められた赤ツバメさんは、後ろに耳を済ませてから、うなずきます。「追っ手の気配はなさそうだ。秘密の脱出路を知っている信者がどれだけいるかは知らないけれど、少しの間なら休んで行ってもいいだろう」

 

スタッブ「ついでに、英雄殿の武器の手入れをしてやろう(笑)。うむ、なかなかの名剣だ。これで〈雪の魔女〉を叩き切ったのだな。スノウ・ウィッチ・スレイヤーと呼ぶべきか」

 

リサ「誤解しているみたいだけど、訂正するのも面倒なので、放置しておく。そのまま目を閉じて、自分の中のモヤモヤをはっきりさせようと試みるよ」

 

リバT『シャリーラの魂とのコンタクトを試みるということですか?』

 

リサ「そこまで明確な意志じゃないけどね。指輪の未来視の応用で、自分が通らなかったルートについて、IFの可能性を探り当てるとか、ちょっとした瞑想みたいなものさ」

 

リバT『分かりました。では、リサさんの意識はシャリーラを倒した棺の広間から、エルフとドワーフとの出会いのシーンに戻り、そこから右のルートにさ迷います。自分が知らないはずの景色ですが、何故かよく知っているように感じられる光景。シャリーラの記憶が己が物のように投影されていきます』

 

リサ「そう、この先を進むと、白と黒の足跡が付いているのさ。白い足跡に触れると、雹が降ってくる罠で、体力点を2点失う。黒い足跡に触れると、死霊の力が生気を吸いとって、技術点1点と体力点3点を失う。もちろん、わたしのような不死者(アンデッド)にはどうということないんだけどね……と、ささやく声が聞こえて、ゾクゾク身震いする」

 

スタッブ「正解は、どちらの足跡も踏まないようにすることだが、慎重に歩いている自分を幻視しているタイミングで、このわしが刃を研ぎながら、思わずくしゃみをしてしまうんじゃ。う〜ん、この鋭き刃、ゾクゾクするのう。いや、風邪でもひきかけてるのか? とボケながら(笑)」

 

リバT『ゲームブックの選択肢では、スタッブさんのくしゃみの結果、びっくりして足跡を思わず踏んだり、踏まなかったりするんですね。仲間のドジのせいで、思わぬ被害を被る可能性が。これも1Dによる3択で、技術点や運だめしで回避できる類の罠じゃない、と』

 

リサ「うう、ドワーフごときがドジを踏みおって、とリサとシャリーラの気分が入り混じった状態で、心の中で悪態をつく(笑)。こっちの通路を通らなくて良かった」

 

リバT『雹の罠も、死霊の罠も、〈雪の魔女〉には実害がないのですけどね。足跡の通路を突破すると、通路は左に曲がり、そこに丸い金属板が落ちているのに気付きます』

 

リサ「そうそう。これがゲームに必要なのさ。まあ、丸はなくても大して問題ないのだけどね。大事なのは星と四角。四角を選べば勝てるはず。これがわたしの好きなゲーム……と陶酔しながら、ハッと我に返る。〈雪の魔女〉の好きなゲームなんて、あたしは知らない(笑)」

 

リバT『ややこしい憑依ロールプレイにかこつけたIFルート解説、おつかれさまでした。ここまでのマッピングは以下のとおりです』

 

         ?

         l    

    259ヘビの取っ手の箱

         ↑

   ー→ーーーーーーーーーーーー←ー

   l                l

   ↑            207丸い金属板

   l                l

   ー61オーブーーーーーー388足跡ー

          l

          ↑

       雪の魔女の広間

 

カードゲームの札探し

 

リサ「瞑想から覚めて、いきなり叫ぶの。星と四角の札が必要だわ」

 

リバT『リサさんの突然の妄言に、エルフさんは冷静に答えます。「一体、何の話だ?」

 

リサ「あたしの名前はリサ・パンツァ……と何度かつぶやいて、自分自身を確認してから、順を追って話そうとするのだけど、何をどう話したらいいのか分からなくて、戸惑った表情を浮かべるの」

 

リバT『(大丈夫か、この女?)という表情を一瞬浮かべてから、赤ツバメさんは冷静な表情を取りつくろって言います。「まあ、落ち着け。君が何を見たか知らないが、ただの夢だ。〈雪の魔女〉が復活する気配はないし、追っ手もまだ来ない。わたしたちもここにいる。君は安全だ」と精一杯の慰めの言葉をかけてくれますよ。クールなイケメンエルフ仕草です。それでも落ち着いてくれないなら、優しく抱きしめてくれます』

 

リサ「そこまでは求めていない」

 

スタッブ「では、わしの方からも声をかけよう。ほれ、ようやく研ぎ終わったぞ。稀代の名剣じゃ。大事にせえよ。どんな魔物が出ても、この剣さえあれば恐れるものは何もない。そうじゃろ? と言って、剣を返す」

 

リサ「ありがとうと言って、受け取るわ。刃に指を当てて、これなら何でも斬れそうね、とうっとり陶酔の笑みを浮かべます」

 

スタッブ「そりゃそうだとも。バーノンのおやっさん仕込みの研ぎの腕だからな。わしは修行途中の身だったから、おやっさんみたいに刀は打てんが、手入れだけならバッチリよ。何なら専属研ぎ師に雇わんか? 英雄殿の武器の手入れなら、村のみんなにも誇らしい顔ができる」

 

リサ「そうね。この洞窟を無事に脱出できたら考える。今は先を急ぎましょう」

 

リバT『「それで星と四角の札って何の話だ?」って赤ツバメさんが先ほどの言葉の意味をたずねて来ますが?』

 

リサ「え? 何の話? ときょとんと首をかしげます。自分が言ったことを覚えていない素振りで」

 

リバT『「いや、いい。覚えていないなら、ただの夢だ。落ち着いたようで何よりだ」と、赤ツバメさんは気まずそうに話を締めくくります』

 

リサ「おかしなエルフね、という目で見ます」

 

スタッブ「全くじゃ」

 

リバT『ひどい。何だかレッドスウィフトさんが可哀想な人みたいになってるじゃないですか。せっかく、リサさんを慰めようとしてくれていたのに』

 

リサ「まあまあ。記憶が混濁しているのに、本人はその自覚があまりないロールプレイをしているだけだから」

 

スタッブ「こういうのは、当の本人よりも、周りの者が苦労するからな。あまり親身に関わろうとすると、巻き込まれて心が病むゆえに、わしみたいに鈍感力を発揮するぐらいでちょうどいい」

 

リバT『メンヘラ指導のリプレイにするつもりはないのですけどね』

 

リサ「あたしは別にメンヘラってわけじゃないんだけどね。魔女の霊に取り憑かれてしまっただけさ」

 

リバT『リアルな世間では、そういうことを真面目に話すとメンヘラさんと言われるそうですよ。空想と現実の区別はしっかり付けませんと』

 

リサ「夢世界の産物である、あんたにそれを言う資格はないと思うんだけどね。ファンタジーな物語を楽しんでいる場で、ディレクターがシラけることを言ってるんじゃないよ。とにかく、今のあたしは研いでもらったばかりの刀で誰かを斬りたい気分なんだ。エルフやドワーフにも血走った目を向けかねないので、2人を置いて通路を先に進む」

 

スタッブ「ちょっと、リサ殿。待つのだ。一人で先走るんじゃない。赤ツバと一緒に後を追うぞ」

 

リバT『スタッブに赤ツバ呼ばわりされるたびに、「略すな。赤ツバメと呼べ」と訂正しているエルフさんです。もはや自分が赤ツバメだと受け入れたようですね』

 

リサ「さて、道を先に進むと、パラグラフ20番。またもやT字路で、左から原始人のケイブマン(技8、体8)が登場することになっている」

 

スタッブ「加勢するぞ、リサ殿」

 

リサ「必要ないさ。こんなザコ原始人ぐらい、あたし一人で十分だ。道が狭いから、うかつに戦うと同士討ちの危険があるし」

 

スタッブ「確かに、そうかもしれんが」

 

リサ「あんたらは右に進んで、先の安全を確保してくれ。こいつを倒したら、すぐに追いかけるから」

 

スタッブ「お、おう。そうさせてもらう。行くぞ、赤ツバ」

 

リバT『「だから略すな」と応じながら、エルフさんはドワーフさんとともに右の通路に走り込みます。では、1対1の戦いに移りましょう』

 

リサ「1対1じゃない。あたしには、アス・ラルが付いている。行くぞ、アス・ラル。血をすすらせてやるぞ」

 

スタッブ→アス・ラル「返事がない。ただの名剣のようだ」

 

リサ「ただの名剣って何だよ!?」

 

アス・ラル「いや、オレは今、シャリーラの霊に封印されて眠りに就いているの。だから、アストラル・ソードは知性を持った魔剣から、刃が鋭いだけの名剣に格下げ状態というわけさ。まあ、数字データは何も変わらない演出だけなんだが。とにかく、アス・ラルはリサの呼びかけに応じられる状態ではない」

 

リサ「そういうことか。だったら、あたしも演出で遊ばせてもらおうか。アス・ラルが応じてくれないので、リサは相棒に見捨てられたようなショックで魂の抵抗力が激減する。その隙を突かれて、シャリーラ魂が表に浮かび上がるのさ。今から、あたしはわたし、シャリーラになる」

 

リバT『ちょっと、クイーン。プレイヤーキャラクターが敵ボスになるなんて、前代未聞です!』

 

リサ→シャリーラ「そんなことはない。こういう前例があるから問題ないはず」

リーンの闇砦: セブン=フォートレス・リプレイ V3Edition (富士見ドラゴンブック 20-2)

リバT『問題ありまくりだと思うのですが、ここはクイーンに従いましょう。お手並み拝見します』

 

シャリーラ(ダイアンナ)「フフフ。やはり、この魔剣の意識を封印したのは正解だったようだねえ。意志の力でわたしに抗おうとしたつもりだろうが、しょせんは未熟な小娘。心の支えを失えば、こうも脆く崩れ去るとは。まだ完全とは言い難いが、この体、徐々に馴染ませてやるとしよう。リサ・パンツァ、そなたが心身ともに我が一部となる日も近い」

 

リバT『あのう、リサさん、いえ、シャリーラさん。ケイブマンがあなたに襲いかかっていますが、そろそろ戦ってくれませんか?』

 

シャリーラ「ふん、醜い原始人ごときが、わたしに楯突こうとはな。ちょうどいい、この体の使い勝手を試してみるか。死ぬがいい!」

 

 リサの体を(たぶん一時的に)乗っ取ったシャリーラは華麗に剣を振るって、ケイブマンを瞬殺したのでした。

 

リバT『ケイブマンを倒すと、星形の金属板が手に入ります』

 

シャリーラ「おや、一枚なくしたと思っていたが、こんな原始人の手に渡っていたとはね。星は栄光、繁栄、上昇する幸運を象徴する。懐かしいカードゲームの手札がこんなところで入手できるとは、まるでわたしの未来の成功が約束されたような気分だ」

 

リバT『星の札にそんな意味があったんですか?』

 

シャリーラ「当リプレイで独自に考えてみた。他のマークにも、意味づけはしてあるので、札が出てきた時に語ってやろう」

 

リバT『何だかディレクターを乗っ取られた気分ですが、楽しみにしておきます』

 

逆襲のシャリーラ

 

シャリーラ「さて、左は原始人の巣窟だったね。そっちに向かっても意味がないので、ドワーフとエルフの後を追うとするか。あの者たちの血をすすって、我が従僕に仕立てるのも一興……って、この生身の肉体ではそのようなマネはできないか。魔剣の影響で、魔に近づきつつあるとは言え、吸血鬼とは違うからな。いずれは我が神の力で不死の祝福を施してやらねばならぬ」

 

リバT『あのう。楽しそうに好き勝手言ってますけど、本当に収拾つくんですか? このままだと、ゲームブックの物語が崩壊する未来が見えてるんですけど?』

 

シャリーラ「大丈夫だ。全てはわたしの計画どおりに進んでいるゆえ、従者は黙って見ているがいい」

 

リバT『従者って、そりゃあ、私めはクイーンの従者ですけど、今はディレクターの役目を果たしたいわけで』

 

シャリーラ「ならば、果たすと良い。次は、パラグラフ何番だ?」

 

リバT『ケイブマンの次は、パラグラフ365番です。通路の先の部屋で、エルフとドワーフがマインドフレイヤーみたいな姿のタコ頭の魔術師風な怪生物ブレインスレイヤーに捕まって、大ピンチな状況です。2人はタコ頭の触手に絡めとられて、催眠状態に陥っていますね。このままだと脳みそをすすられて廃人化してしまいます』

 

スタッブ「助けてくれ〜とも言えない状態なんだな。プレイヤー発言をさせてもらうと、マインドフレイヤーはD&Dオリジナルモンスターで、ビホルダーほどではないが、そのままの名前で使うと怒られる類らしい。元ネタはクトゥルフ神話由来のクトーニアンだって聞くが」

 

シャリーラ「闇の魔術で、わたしが召喚したここの番人さ。この脱出路から、そう簡単に脱出できないようにさせている。しかし、この〈雪の魔女〉シャリーラは召喚主だから、自由に命令できる。おい、闇の住人たる頭脳殺しよ。その2人は、わたしの奴隷だ。返してもらおうか」

 

リバT『本当に、好き勝手な設定を付けてくれますね。しかし、ディレクターとして、ゲーム性はしっかり守らせてもらいます。ブレスレさんは、リサさんの肉体のシャリーラさんを召喚主としては認めません。それに一度死んだことで、召喚契約は切れているようです。さあ、催眠能力を働かせようとしますよ。抵抗できますか?』

 

シャリーラ「フッ、生身の肉体なら抵抗できず、脳をすすられて技術点2、体力点6を失うところだったが、このわたしに抜かりはない。【勇気のお守り】をリサ・パンツァは身につけているからな」

 

リバT『では、ブレスレとの戦いになります。技術点10、体力点10のそこそこ強敵ですよ』

 

シャリーラ「おのれの主人さえ見分けられぬ愚かな怪物に用はないわ。元の闇に滅するがいい」

 

 こうして、シャリーラ(に乗っ取られたリサ)と、(シャリーラがかつて召喚したらしい)魔性の怪物との闇同士の戦いが始まった。

 結果はシャリーラの圧勝に終わる。さすがは〈雪の魔女〉、本作のボスだけはある。

 

スタッブ「ええと、頭がフラフラしながらも何とか目覚めるが……【服従の首輪】は反応するのかね?」

 

リバT『そうですね。シャリーラさんが復活しているのですから……』

 

シャリーラ「いいや、残念ながら時間切れのようだ。頭脳殺しとの戦いで、魂の力を消耗したようで、シャリーラは少し眠りに就く必要が生じた。今は、この肉体をリサに返すとしよう。まあ、某聖闘士漫画における双子座、もしくは蛇遣い座みたいなものだな」

 

リバT『なるほど、サガかオデッセウスかって感じですか。ロールプレイ方針には納得しました。二重人格ロールプレイだと思えば、方向性は見えた感じで安心しましたよ』

 

シャリーラ→リサ「うっ、ここは? あたしは一体? あたしはリサ・パンツァ。シャリーラではない。そんなの当たり前じゃないか。何をバカなことを……と言って、頭を押さえる。思い出せない、何が起こってるんだ?」

 

スタッブ「そんなリサ殿に声をかけるぞ。おお、リサ殿、あんたがどうやらわしらを救ってくれたようだな。わしらは何だかよく分からん怪物の催眠攻撃にあって、抵抗できないまま餌食にされようとしていたようだ」

 

リサ「あたしが……あんたたちを救った?」

 

スタッブ「他に誰がいる? 〈雪の魔女〉から解放してくれただけでなく、今度は闇の魔物からも。さすがは英雄どの、この借りはどうやって返したらいいのだろうな。脱出の暁には、ぜひストーンブリッジに寄ってくだされ。村のみんなに話して、英雄どのの歓迎の宴を催さないと」

 

リサ「あたしは、そんな大したことをしていない……はず。それよりも恐ろしい何かが密かに進行している気がするんだけど、それが何か分からない。大事なことを忘れているような、頭にモヤがかかったような」

 

リバT『「無理もないさ」と赤ツバメさんが訳知り顔に言います。「わたしたちも、同じだよ。タコ頭の怪物の精神攻撃のせいで何だかフラフラしている。そいつと戦った君だって、影響を受けているはずだ。しばらく落ち着いて、自分を取り戻そう」そう言って、心からの信頼の目でリサさんを見ます』

 

リサ「ウッ、そういう目であたしを見るな……って感情が唐突に湧き上がってくる気がしますが、表面上はにっこり微笑んで、『そうだね。2人は大切な仲間だと思っているし、無事に助けることができて良かったよ』と応じます。内心の不安を押し隠すように努めながら」

 

リバT『「そうさ。時が来るまで、せいぜいお仲間ごっこを楽しむんだね。いずれ、その2人も大切な奴隷従僕になるんだからさ」という不安の主の声は、リサさんには聞こえていないってことで。さあ、部屋の反対側に扉がありますが、部屋の中には赤い壺と灰色の壺が見つかります』

 

リサ「壺に興味を持ちます。壺の中身を何故かあたしは知っているので、自分の持ち物であるかのように中のアイテムを取り出しますよ。まずは赤い壺から」

 

リバT『四角い金属板が入っていますね』

 

スタッブ「それは何じゃ?」

 

リサ「背負い袋から取り出した星の金属板といっしょに並べて見せます」

 

赤燕『もしかして、それが君の言っていた星の札と四角い札かい? 夢で見たという』

 

リサ「夢で見た……はっきりしないけど、運命神のお告げがあったのかも。星は幸運の象徴で、四角は安定と堅実さ、揺るぎない壁と、屈強な体力を象徴していた。そういうマジックイメージだった気がする。どこで読んだか思い出せないけど」

 

スタッブ「屈強な体力だと、わしじゃな」

 

赤燕『だったら、幸運はわたしかリサさんのどっちだろう? もう一枚、あればいいんだけどね』

 

リサ「確か丸の札があったと思う。全き完全性とか、万能性、全能の知識とか技術を象徴するんじゃなかったかな」

 

赤燕『それなら、丸はリサさん、君かもね。そんな君に出会えたわたしが幸運ってことで』

 

リサ「あたしが完全だって? そんなのあり得ないさ。選べるんだったら、星の方がいい」

 

スタッブ「わしらは誰も完全とは言い難いだろう。せいぜい、3人寄って完全に近づけるってことではないか? 丸を象徴するなら……円満仲よく皆で団結するってのはどうじゃ?」

 

赤燕『ドワーフにしては、良いことを言う。その意見はわたしも賛成だ。じゃあ、次は丸の札を探そうか』

 

リサ「それはもう見つからないんじゃないかな。たぶん、あたしたちが通らなかった道に落ちていたような気がするし」

 

スタッブ「今から引き返して取りに行く余裕もなさそうじゃな」

 

リバT『ゲームブックの選択肢的に不可能ですね。では、もう一つの灰色の壺ですが……』

 

リサ「無遠慮に、中から古い羊皮紙の巻物を取り出す。まるで、自分がこっそり隠した宝を改めるような風情で」

 

スタッブ「リサ殿、それは?」

 

リサ「瞳にリサらしからぬ高慢な光を閃かせて、この後で役立つものさ、と謎めかした笑みを浮かべる。そして、手慣れた作業のように無造作に、巻物の封を破って、消えゆく呪文を読み解こうとする」

 

リバT『念のため、技術点判定を行って下さい』

 

リサ「11。どうして、魔術の心得のない自分がこうも鮮やかに呪文を読み解けるのか、いぶかしく思いながらも、〈グル・サン・アビ・ダアル〉の呪文を心に記憶する。これはエア・エレメンタルの攻撃から身を守ってくれる呪文だと、しっかり認識したうえで。運点も1点もらえて、フル回復よ」

 

スタッブ「ううむ、リサ殿は優れた剣士だと思うておったが、魔術にも堪能だったとは、さすがは英雄というか勇者というか、感服したわい。疑う素振りを一切、見せない単純なドワーフであった」

 

リバT『そう言われたら、エルフさんは何だか疑わないといけないような気になるじゃありませんか。ええと、じっくりリサさんの様子を観察していた赤ツバメさんは、質問します。「リサさん、あなたはそういう魔術の知識をどこで学んだのか?」と』

 

リサ「あれ、話してなかったっけ? ヤズトロモってお爺ちゃんがいて、小さいときにお菓子をもらったり、本をいっぱい読ませてくれたんだって話。あたしの冒険の知識の多くは、ヤズトロモさんから教えてもらったんだ」

 

スタッブ「それなら納得じゃ。ヤズトロモと言えば、わしらの村とも交流があって、いろいろと魔法の品を売ってくれたり、ドワーフの珍しい仕掛け細工を買ってくれたりする。魔術はうさん臭いが、あの御仁は信頼できる老人じゃよ」

 

赤燕『ヤズトロモか。田舎者のわたしでも知ってる名だ。そうか、ならば、君が〈雪の魔女〉を倒したというのも納得できる。まさか、善の魔術師としてアランシアに名高い御仁の身内の方だったとは』

 

リサ「目をパチクリさせます。自分にとってのヤズトロモさんと、世間での評判が大きく食い違うので。そして、こうも思います。『何だか、あたしがヤズトロモさんのおまけみたいじゃない? あたしはあたしとして、一人の英雄として世間で知られるようになりたいな』って」

 

スタッブ「若いときは、そう考えがちなものなんだな。有名人に憧れて、自分もそうなりたいとか、世間でチヤホヤされたいとか、ファンに囲まれてサインしたいとか」

 

リバT『だけど、年を重ねるにつれて、自分の身の丈を知るようになり、落ち着いて安らぎのある生活を求めたくなるもの。まあ、そういうことを考えると、冒険者としては引退時なのかもしれないですけどね』

 

リサ「あたしは、まだそういう後ろ向きな気分にはならないかな。だって、世界にはまだ見たことのない冒険の種がいっぱいあるんだし、赤ツバメさんやスタッブさんのような仲間だってできた。あたしの冒険はまだ続くよ」

 

 

 そう。この時は、無邪気にそう考えることができたんだ。

 悪の魔女を倒すという目的を果たして成功した冒険と、

 世間一般では一財産程度にはなるだろう額の金貨(莫大という言葉には程遠いけど)と、

 癖はあっても気のいい仲間たち。

 これまでに3種のお宝を手に入れることができたのだし、星の幸運に導かれて、四角く安定して確実な物語と言えた。

 

 だけど、完全な円満ではなかったことを、この後にイヤというほど思い知ることになる。

 あたしの中に巣食う闇の影、死を呼ぶ魔女の影は、確実にあたしを蝕んでいて、知らず知らずのうちに、あたしの心に魔性を植えつけていた。

 あたしはリサ・パンツァ。〈呪われた魔女剣士〉という名で将来、噂されることになる、あたしの真実の記録はなおも続く。

 自分の中の闇と対峙するのは、ここからのこと。

リサ・パンツァ

・技術点12

・体力点20/20

・運点12/12

 

・食料残り5食

・金貨:250枚

・所持品:アストラル・ソード、時間歪曲の指輪、幸運ポーション、背負い袋、戦槌(ウォーハンマー、スタッブに貸与)、【勇気のお守り】(技術点+2)、スリングと鉄の玉2つ(赤燕に貸与)、金の指輪(冷気抵抗)、ドラゴンの卵、星の金属板、四角い金属板、エア・エレメンタル対策の呪文(青字は今回入手したアイテム)

(当記事 完)


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