3人の旅仲間
奈落の帝王のリーサン・パンザだ。
この俺と、謎かけ盗賊リドリング・リーバーの出会いと因縁の話だが、それには3人の冒険仲間が関わってくるので紹介しておこう。
この3人は、『謎かけ盗賊』の追跡行でいろいろ助け合う間柄になったし、その後の『奈落の帝王』事件でも関わることになるのだが、残念ながら、3人ともが故人になってしまった。
全てがリーバーの責任にはできないが、一時でも仲間として関わり合った者の不幸な顛末は、それが運命だったという言葉では片付けられないほど、心にクるものがあるな。
出会いと別れも冒険、いや人生の一部と割り切るしかないのかもしれんが。
最初に会ったのは、ブラックサンドのソフィア。魔術をたしなんだ盗賊で、いい女だった。
サソリ会の一員ではないが賞金稼ぎで、俺を追いかけて来た……わけではない。それ以前に、とある仕事でしくじり、アズール卿の恨みを買って、この南の地へ逃げて来たらしい。
賞金首の俺(南の地でも噂は聞こえたらしい)を始末すれば、故郷に帰れるかと思って、出来心で俺の命を狙ってはみたものの、暗殺者ハンターの俺を始末するには力量が足りていなかったようで、わずかばかりの戦いのあとで「くっ殺せ」と言うようになった。
俺には女を痛ぶる趣味はないので、解放してやったら、驚いた表情で「なぜ殺さん? 憐れみでもかけるつもりか?」と一丁前の口を利く。
「お前さんを殺しても、得をしそうにないからな。生粋の暗殺者ってわけでもないのだろう? だったら、俺といっしょにお宝探しの冒険でもしないか?」
そう言って誘いをかけたら、「お前に助けてもらった命だ。借りを返すまでは付き合ってやる」と言って、顔を赤らめながら仲間になった。
惚れられちまったか?
ここで俺に甲斐性ってものがあれば、抱いてやったりもしたのかもしれんが、愛する女が別にいるから、ソフィアの想いに応えることはできなかった。
まあ、英雄の道は色の道などと豪快なことを言ってのける野蛮人の伝説も聞いたことはあるが、この俺はそういう性欲で動いているわけじゃないからな。
俺の一番の動機は、やはりお宝だ。
ただ、人との関わり合いも宝とは言えるし、彼女の魔法や人間観察力にはいろいろ助けられたな。
2人めの仲間にして、パーティーのリーダーとなったのは、《無敵のラメデス》を自称する屈強の戦士ラメデスだ。
実際にそう名乗るほどの武芸や力量を持ち合わせているが、猪突猛進、豪胆だけどバカ、お人好しで正義感は篤いが、周囲から勇者と崇められて調子に乗って死ぬタイプだったな。
ただ、その真っ直ぐな気性には好感が持てたので、パーティーの表看板として掲げるには、立派な主人公と言えたし、良き参謀とか軍師役が介添えしたら、稀代の英雄とも成り得たかもしれん。
3枚め寄りの俺なんかより、よほどヒーローしているが、ソフィアに言わせれば、堅物すぎて面白みがないらしい。
3人めの仲間は、偃月刀使いの剣士ルーサー。巧みな話術と端正な顔つき、憂いを帯びた表情が女にモテそうなクール美剣士って風情だが、正直言ってイケ好かないタイプだ。
ソフィアに言わせれば、信用ならない男らしいが、少なくとも『謎かけ盗賊』の追跡行では裏切ることもなく、持ち前の頭の良さで謎を解くのに貢献してくれた。
そんなわけで、俺たち一行の構成をまとめると、以下のとおりだ。
- 無敵のラメデス:直情漢の屈強な戦士。陽気で豪快で、思い込んだら一直線なパーティーリーダー。
- 美剣士ルーサー:クールな知性派。影のあるイケメン・サブリーダー。ラメデスとは、よく口論するが、チームの知恵袋、参謀役として活躍。
- ブラックサンドのソフィア:パーティーの紅一点の女盗賊。魔法の技にも長けていて、機転が利く。
そして、この俺、リーサン・パンザだ。
パーティー内の役どころ? 経験豊富なトレジャーハンターにして、裏社会にも詳しい。武芸はラメデスに勝てないが、サバイバル知識や生き汚なさでは勝るといったところか。
ラメデスとルーサーの不仲を仲裁するムードメーカーといった感じで、結果的に、パーティー内の決定権は俺に委ねられることが多かった。ラメデスが英雄としての理想を主張し、ルーサーが現実主義の立場から反論し、何だか俺の判断で物事が決まるような感じか。
ソフィアが俺の肩を持ちがちなのもあってか、名目上のリーダーがラメデス、参謀格なのがルーサーにも関わらず、どうも俺が実質的なリーダーになっている節があった。
例えば、ある議論の際など、俺の腹ペコがグーッと大きな音を鳴らすことで、その場のギスギスした雰囲気をなだめて、もつれた人間関係をうまくまとめる天然ボケが功を奏したが、ソフィアに言わせれば、それが俺の人徳らしい。
親しみやすさとか、独特のユーモアとか人情味に惹かれたとのことだが、単に格好悪いだけじゃないのか、と自分では思う。
主人公タイプのラメデス、2枚めのルーサーに対して、3枚めの俺はそれでもまあ、持ち前のサバイバル知識と、お宝への卓越した嗅覚と、鍛えられた危機回避能力で、それなりにチームに貢献できたと思いたい。
何だかんだ言って、バランスの取れた良いパーティーだったと思うよ。
『奈落の帝王』事件で、陰謀の結果、チームがバラバラになって崩壊するまでは。
カラメールの呪い
北西アランシア出身の俺とソフィアはまだ土地勘をあまり持たなかったので、南アランシアの地理に詳しいのは地元出身のラメデスとルーサーだった。
ラメデスは後ろ盾を持たない農村の出で、ルーサーは没落した下級貴族の出身らしいが、冒険者として民衆受けしやすい性格なのはラメデスの方で、自然とパーティーの中心はラメデスになって行った。
俺とソフィアは、何かとトラブルに巻き込まれがちな、というか自分から飛び込みがちなラメデスをサポートしながら旅しているうちに、そんな奴と酒場で激論を交わしたのをきっかけに、ルーサーも加わった。
ルーサーは冷笑的な男で、上から目線的な接し方をするが、その識見は本物で、この地方での常識は弁えた人物でもあった。適度におだててやると、良い気にもなりやすいので、俺にとっては扱いやすい男だが、実利重視で人情味が薄いという欠点があって、冒険者としての交渉の前面には立ちにくい。庶民からは比較的、敬遠されがちな気取り方をするせいで、陽性のラメデスのようなリーダーシップは取りにくいタイプと言えた。
例えば、いっしょに酒飲み話を楽しめるのはラメデスの方で、庶民のエールよりも高級ワインでないと舌に合わんと、何かにつけて批判めいたことを言うのがルーサー。ただし、ルーサーも金がないので仕事を探しているのは俺たちと同じ。
つまり、出自や性格はどうあれ冒険者として名誉やお金を求めているのは変わらない。そして適度に腕の立つ連中が、縁あって行動を共にしたってことさ。
そうして一月足らずの道中を経て、4人で到着したのがカラメールの街。
裕福な貴族のブルーストーン・ランゴール男爵が治める港町で、ブラックサンドとは異なる明るい交易都市という印象だった。
ここで立身出世を図りたいというのが、ラメデスとルーサーの共通の目的で、俺とソフィアは出世よりも金銭やお宝が目当て。土地勘がないから、この地域で最も栄えてそうな都会に出て来ただけということになる。
もちろん、俺は気球の主リーバーの言葉を覚えていた。
俺の運命は、カラメールに通じていて、この地で新たな冒険が待っているらしい。
そして、リーバーの言葉は正しかった。
なぜなら、リーバー自身がその後の冒険のネタを仕込んでいたからだ。
俺たちがカラメールに到着したその日。
街で一番高い塔で、国を揺るがす大事件が起こった。
領主のブルーストーン男爵が、謎かけ盗賊リドリング・リーバーと名乗る悪漢に、塔の頂上から突き落とされ、衆人監視の状態で殺害されたのだ!
俺たちは街の野次馬連中の中に混じって、その惨劇を目撃することになった。
当然、最初に行動したのはラメデスだった。閉ざされた塔の正面扉を体当たりで押し破り、内部に突入した。ルーサーと俺、ソフィアもラメデスの後に続いて、塔の屋上を目指した。
塔内に囚われていた若き男爵夫人レディ・キャロリーナを救出し、屋上に到達した俺たちは、惨劇を引き起こしたリーバーの姿を確認したが、奴は例の気球に乗って、空へと逃走するところだった。
脱出する前に、リーバーは俺たちを嘲るように、あるいは誘い出すように、挑戦の言葉を残して行った。
『オレは謎かけ盗賊。運と偶然の使徒であるがゆえに、お前たちにチャンスを与えてやろう。男爵の仇が討ちたいなら、オレの仕掛けた謎を解いて、後を追って来るといい。勇敢で、賢明で、幸運な冒険者には乗り物も提供してやろう。
『オレが残した謎を元に、街で3つの小物を探し集め、ブリオン岬でそれらを海神に捧げるのだ。そうすれば、神の船が浮上するだろう。幸運を祈る。あるいは不運を祈るべきか。探索や冒険の試練は、力なき愚か者には不幸しかもたらさないからな。お前たちが勇気ある英雄たらんとするならば、知恵を示せ。クワッハハハ!』
散々、言いたいことを言い残して、いくつもの謎を後にしたまま、リーバーは空に消え去った。気球の向かった先は西ということしか分からない。
リーバーの後を追うには、俺たちは残された謎を解明するしかなかったのだ。
領主の後を継いだレディ・キャロリーナは、自分を助けてくれたラメデスと仲間の俺たちに、夫の仇討ちを依頼した。ラメデスとルーサーは立身出世の機会に飛びつき、俺はソフィアとともに、高額の報酬目的でラメデスたちの冒険に付き従った。
ただし、俺には気になる疑問がもう一つあった。
リーバーは、俺を冒険に誘うために、わざわざ領主殺しという大罪を犯したのか?
その謎を解くためにも、俺はリーバーと知り合いだということを仲間には黙ったまま、探索行に参加したのだった。
レディ・キャロリーナの話
さて、旅の話に移る前に、俺たちのパトロンになってくれた男爵未亡人の話をしよう。
レディ・キャロリーナは新婚間もない若き貴婦人で、可哀想な運命に見舞われることになった。
リーバーの奴に夫を殺害され、非常時ながら仇討ちのために俺たちを雇って、結果的に何とか事件を収めることに成功し、カラメールの街の領主の座を周りから認められるようになった。
女領主になってから、持ち前の聡明さと、逆境に際しても果敢に立ち向かう芯の強さで、良きリーダーシップをとるようになって行った。
後からリーバーが言ってのけたのは、「ブルーストーン男爵よりも、キャロリーナ夫人の方が為政者としては優秀だったから、わたしの行動はカラメールのためになったわけさ」
リーバーは予言者コナ・ナンドラムと名乗って、男爵に自分を売り込んだ。無能な男爵を影から操って、本人曰く、「カラメールを発展させよう」と善意から目論んでいたらしい。
しかし、聡明なキャロリーナが胡散臭い予言者の策謀に気付いて、夫に忠告したおかげで、男爵はリーバーの不実を糾弾し、その結果としてリーバーの手で殺されることになった。
口さがない陰謀論好きな連中たちは、キャロリーナが謎かけ盗賊と結託して、夫を殺害させて、自ら領主の座に収まるよう画策したと陰口を叩くが、ラメデスの前でそんなことを言ったら、間違いなく殺されているだろう。
ラメデスは美しい貴婦人に心酔し、キャロリーナも英雄ラメデスを心から信頼した。
もしもキャロリーナが誠実で貞淑な女性でなければ、ラメデスが未亡人の後添えとして領主の後継者になっていたかもしれないが、二人ともそういう一線の越え方はしなかったと思う。
どちらも真っ直ぐな気質ゆえ、優秀な美貌の女領主と、勇猛果敢な第一の騎士としての節度を崩さなかったからだ。
キャロリーナは領主としても、控えめながら優秀さを示した。
リーバーが言うには、「愚かで好戦的で、自信過剰な男爵のままだったら、カラメールは無謀な対外戦争の連続で衰退していただろうさ」と。
まるで、リーバーがカラメールのために男爵を殺害したかのような物言いだったが、俺たちは奴が塔で拘束した男爵夫人も殺害するために毒グモの罠を仕掛けたのを知っている。
ラメデスが罠を力づくで排除しなければ、彼女も夫と同時に死ぬことになっていたろう。
リーバー曰く、「俺たちがキャロリーナを助け出すのも運命神の計画の一部」だったらしいが、おおかた奴のお得意の、辻褄合わせのハッタリだと俺は思っている。
結果的に、リーバーの策謀のせいで、キャロリーナは不幸になった。
そして、リーバーの策謀とは別に、《奈落の帝王》の策謀が俺たち全員の運命をさらに悪い方にねじ曲げたんだ。
こういう己が欲や野心のために策謀を企てて、人を陥れて不幸にさせる輩はどうにも胸糞悪い。
冒険ってのは、もっとスカッとさわやか、お宝見つけてハッピーエンドで締めくくりたいものだからな。
何はともあれ、俺たちはリーバーの目論見どおり(それが真実だとしてだが)、キャロリーナを助けて、彼女の夫の仇討ちの依頼を引き受け、街中を走り回って、リーバーの仕掛けた謎の答えを解明し、不思議な海船『トゥワイス・シャイ』号を召喚することに成功した。
カラメールの街の西にあるブリオン岬から、俺たち4人が恐る恐る乗り込むと、船は自動的に航行を開始した。俺たちが船内の探索に時間を費やしている間に、船はカラメールから西方のシャマズ湾を横切って、蛇国の西に位置するジャングル地帯まで到着した。
人同士の陰謀劇よりも、ジャングルの奥地に眠るお宝探しの方が、俺にはふさわしい冒険さ。
『謎かけ盗賊』の攻略話
リモートNOVA『ここまでで、FFシナリオ「謎かけ盗賊」の半分まで進めた形。全4部構成の第1部「カラメールの呪い」は、謎かけ盗賊の領主殺害事件と、3階建て+屋上の塔攻略、そしてカラメール市内を駆け回って、謎かけ盗賊の残した謎が指し示すアイテム3つを集める展開だ』
アスト「アイテム集めを謎解きにしたわけか」
NOVA『どこで、何を、見つけるかのヒントが謎々なんだな。続いて第2部「謎の航海」は、謎かけ盗賊が用意した神秘の船「トゥワイス・シャイ」号の船内をいろいろ調べて回る変則ダンジョンシナリオだが、物語としては飛ばしてもいい内容。まあ、調べ回ると、便利なアイテムが入手できたりもして、リスク以上のメリットはあるのだと思う。ただ、この段階では、FFに成長ルールがなかったので、経験点が得られるでもなく、純粋にストーリードラマを楽しみたいなら、飛ばして先に進めることを推奨していた』
ダイアンナ「だけど、時間があれば、きちんとプレイして、お宝はゲットしておきたいところだね」
NOVA『ここまでのストーリーで一番重要なのが、謎かけ盗賊を除けば、カラメールの領主になるレディ・キャロリーナだな。シナリオの時点では、夫を失った可哀想な未亡人だけど、仇討ち名目でプレイヤーキャラクターをしっかりサポートしてくれる。もちろん、第2部から後は、舞台がカラメールから離れるので、出番がなくなるわけだけど、ゲームブックの背景では、しっかり領主していて、再びプレイヤーのパトロン役として、国を守ろうと頑張る姿が描かれている』
ダイアンナ「夫を失った女性君主か。その設定だけでも、ファンが付きそうだね」
NOVA『ゲームブックだと、彼女を支える4人の上位貴族との宮廷会議の場面に、主人公を含めた冒険者たちが集められて、国を守るための協力を依頼される場面からスタートする。で、よくあるゲームブックだと、美貌の女君主を助けて、国の窮地を救ってハッピーエンドってことなんだが、「奈落の帝王」はそういう王道パターンとは異なる展開を見せたんだ。カラメールの国が崩壊し、キャロリーナも物語半ばで不可解な変死を遂げる』
ダイアンナ「何と。主人公のパトロンを務めてくれた女王役が死んでしまうだと?」
NOVA『この展開には、プレイヤーの俺もビックリしたな。この女領主殺害の犯人を探すシーンが物語の中盤に差し込まれるんだが、4人の上位貴族のそれぞれの思惑を情報収集して、お前が犯人だ、と告発するイベントがある。なお、このイベントに介入できずに、貴族たちの内部事情に接することのできないまま、一庶民として女領主の葬式に参列するだけ、という展開もあるが、それだとフラグが立たないので攻略不能になる』
アスト「正解ルートだと、事件の全貌が分かるけど、上手くフラグを立てないと部外者扱いで、状況がよく分からないまま、時間が経過してゲームオーバーを迎えてしまうんだな」
NOVA『結論を言うと、貴族の一人が異界の《奈落の帝王》と契約して、カラメールの住人たちの魂を異界送りにして、残された肉体を傀儡扱いにして、ゾンビみたいな軍隊に仕立て上げて、国を脅かす。そして、自らは《奈落の帝王》の従僕として、カラメールを牛耳った後、周辺諸国への侵略を企てていこうという筋書きなわけだ』
アスト「そんな状況で、主人公に何ができるというんだ?」
NOVA『《奈落の帝王》の軍隊に挑むためには、異界に詳しい魔法使いや、謎かけ盗賊、武芸の師匠などといった登場人物と出会って、いろいろとフラグを立てなければいけないんだが、彼らと会うためのルート探しを経てから、現世の問題を解決して、その後で異界の奈落に乗り込んで、ボスを倒す展開になる。しかし、《奈落の帝王》を倒すためには、異界での魔力の源に接する必要があって、その力がなければ対等に戦うこともできずにゲームオーバーだ。そして、自らが《奈落の帝王》の力を奪いとった後は、その権限で奈落に囚われた人々の魂を解放して、カラメールの再興を見届けて、一応のエンディングを迎えるわけだな』
ダイアンナ「ただし、自分は奈落から脱出できない、と」
NOVA『強大な力の主が、奈落から人界に渡るにはそれだけ大量の魔力が必要になるんだよ。しかし、主人公が帰還するために、その魔力を使ってしまうと、奈落に囚われた多くのカラメール国民の魂を解放することができない。自分が助かるか、大勢の人々を助けるかの選択肢が出て、前者を選ぶとカラメールが滅びて、主人公は英雄失格ということでゲームオーバーだ。結果的に、主人公は奈落に取り残されて、《奈落の帝王》の後継者として異界の主の立場に君臨しながら、カラメールの未来を見届けるのが400番のトゥルーエンドだ』
アスト「で、3人の冒険仲間たちは、どうなるんだ?」
NOVA『ソフィアは、事件の調査中に死亡。ラメデスは、キャロリーナの死を知って、彼女の仇討ちを求めて、犯人も分からないまま、貴族たちに無謀な突撃をかけて狂人として処分される。ルーサーは貴族の黒幕と結託した悪党に成り下がって、ラメデスや主人公をも陥れようとしたんだけど、主人公にいろいろと暴露されて、裏切り者として投獄される。あるいは、主人公と戦って死ぬ展開もあるな』
ダイアンナ「ええと、それは全部ゲームブックの展開だよね」
NOVA『ああ。ゲームブックだと、ポッと出のNPCたちが、次から次へと無惨な展開を迎える筋書きで、個人的にはキャラの絡みが足りないな、と感じた。プレイヤーのよく知らないキャラが(キャラクターにとっては知り合いらしいが)、死んだり、裏切り劇を働いても、ドラマとしてはあまり感情移入できないんだな』
アスト「まあ、『トカゲ王の島』のマンゴみたいなものだな。死ぬ前に何らかの交流劇を描いてこそ、感情移入対象にもなるわけだし、裏切り劇が盛り上がるのは、その前に信頼があってこそだ」
NOVA『「奈落の帝王」はとにかく、登場人物が多く、ドラマ的にも奥が深い心情を描いた傑作なんだけど、そのドラマを下支えする感情移入に難があって、そこを補わないと、ストーリーが上滑りしてしまうんだな。だから、ここでは、主人公リーサンの各キャラに対する感情移入を補完してみた次第だ』
ダイアンナ「前日譚の『謎かけ盗賊』の冒険仲間という関わり方があってこそ、『奈落の帝王』での各キャラの末路が印象的に見える、と」
NOVA『この辺は、ゲームブックの主人公がプレイヤー自身という前提なのに、プレイヤーの知らない旧友というのが登場すると、なかなか感情移入が困るんだよな。まあ、単に助けてくれるだけなら問題ないが、非業の死の場面を見せられたり、裏切りを見せられたりしても、泣けないし、怒れない。大事な仲間と認識できて初めて、キャラの死に泣けるわけだし、信頼できる相手と認識できて初めて、その裏切りに衝撃を感じたりもするわけだ』
アスト「ファイナルファンタジー4とかが分かりやすいな」
NOVA『コンピューターRPGだと、パーティーに参加していた仲間キャラが離脱時にドラマが発生するな。ゲームブックだと、スロムや〈赤速〉(レッドスウィフト)の死は印象的で、マンゴの死はそれほどでもなかったのは、やはり仲間として行動を共にしてきた期間があって、感情移入を熟成させてこそだと思う。その辺の熟成が、「奈落の帝王」ではゲームブック処女作ということもあってか、描ききれなかったのだろうな。まあ、作者がプレイヤーに味わって欲しい感情というのは、おおよそ想像できる分、最低限のドラマ作りには成功してると思うんだが』
ダイアンナ「とにかく、『奈落の帝王』が次々と登場人物が非業の死を遂げていく陰鬱なストーリーだというのは分かった。でも、『謎かけ盗賊』は違うよね」
NOVA『第3部「運命の振り子」は、「トカゲ王の島」みたいな雰囲気のジャングル・アドベンチャーだ。変異トカゲ兵とか首狩り族とか、共通するモンスターも出現するし、トカゲ兵から助け出した探検家ワックスリー・スピードの案内で、秘宝「運命の振り子」が眠っている神殿の情報を得て、その探索がメインテーマと言える。最も冒険らしい冒険だと思う』
アスト「で、その運命の振り子には何ができるんだ?」
NOVA『善と悪を支配して、入れ替えてしまうらしい』
アスト「すると、善人が悪人に、悪人は善人になるってことか?」
ダイアンナ「すると、リサ・パンツァが〈雪の魔女〉になったのも、その振り子の影響か?」
NOVA『そこまでは知らんが、謎かけ盗賊はその振り子の力で、アランシアの住人すべての善性と悪性をひっくり返す儀式を敢行しようというのが目的だ』
アスト「ちょっと待て。謎かけ盗賊が振り子を狙っているだと?」
NOVA『そう。だから、謎かけ盗賊よりも先に、振り子を手に入れないといけないんだが、残念ながら振り子を奪われてしまうんだな』
ダイアンナ「善人が悪人になるってことは、ヤズトロモさんが悪の魔術師になるってことだよね」
アスト「逆もありだな。バルサス・ダイアやアズール卿が正義になる」
ダイアンナ「善悪が逆転した世界か。それは面白いかも」
アスト「さすがは〈謎かけ盗賊の娘〉だな。そういうのを面白がれるということは」
NOVA『悪堕ち物語が好きな人間には、いろいろと想像力がたぎる展開だが、D&Dでは「性格が逆転する呪いの兜」がマジックアイテムにあるし、ウィザードリィだと友好的なモンスターに対する選択肢で善悪が変わったりする。基本的には、善が平和主義で、悪が好戦的と解釈しているゲームは多いが、そこに秩序や混沌の概念が加わるとTRPG哲学論争が発生したのも主に世紀末だな』
アスト「21世紀に入ると?」
NOVA『ゲームや世界観ごとに、善悪の概念をシステムが規定するようになったり、「ビーストバインド」とか「ダブルクロス」みたいに悪堕ち要素をシステムが内包するようになったり、「ソード・ワールド」の蛮族プレイのように、敵キャラの価値観を追加ルールやワールドガイドに載せたりしながら、公式見解が明示されるようになったな。今年も、どうやら悪堕ちブームが来ているみたいだし』
NOVA『悪堕ち界隈で議論されるのは、平和に暮らしているモンスター娘は、人間の価値観的に悪堕ちと見なすべきか否かというテーマがあってな。日本では、山本弘さんのソード・ワールド・リプレイで大きく取り上げられたりもしたんだが』
NOVA『20世紀初めのヨーロッパでは、文明=光=善、未開=闇=悪という考え方が一般的な知識人にも見られて、それが半世紀も経つと、自然を大切に考える東洋哲学を取り込むことで、揺り戻しが起こって、今では自然と環境を重んじる=善、過剰な文明賛美と産業開発=自然に優しくない=悪と、極端な善悪二元論が蔓延している。何だかんだ言って、善悪二元論に走りがちなんだよな。バランスをとった中庸で、程々に、というのが東洋哲学の根幹と考えるが、どうも過激な善悪二元論に走りがちなのが、現在のネット議論に見える』
アスト「誰かや何かを悪と決めつけて、正義の名の下に叩くのが、快感だもんな。正義に酔い痴れる欺瞞性こそが、自戒しなければいけないことだとは思うが、それはそれとして、善悪逆転現象というのは、中立勢力にはあまり関係ないが、世界を混乱させることは間違いない」
NOVA『価値観の急進的な逆転現象だもんな。愛情が一転して憎悪に変わったりすると、文明は一気に崩壊するんじゃないか』
ダイアンナ「戦争しているところ限定で、価値観反転ビームを照射すれば、平和が実現したりはしないかな?」
NOVA『思考実験の範疇だが、憎悪を穏和な気持ちに書き換えられるならいいのかもしれない。だけど、そういう細かい感情指定ができるようには思えないんだな、運命の振り子って。一応、謎かけ盗賊の行動原理って、「面白い冒険物語の世界を現出させること」だと思うから、一通り混乱させて、ある程度、煮詰まったら、世界を元に戻して完全に崩壊はさせないと考えるんだが、その混乱の責任はとらないところに問題がある』
アスト「で、結局、第4部『エントロピーの世界』で、謎かけ盗賊の善悪逆転儀式を止めるのがシナリオ目的になるんだな」
NOVA『冒険の舞台は「謎かけ盗賊のアジト」だ。いろいろな怪現象が発生するダンジョンで、謎と混沌の世界と言っていい。そして、最後に謎かけ盗賊の儀式を止めて、めでたしめでたしだ。まあ、謎かけ盗賊は死んだように見せかけて、ちゃっかり逃げてしまうんだけどな』
ダイアンナ「とにかく、リサが《雪の魔女》になったのも、リーサンが《奈落の帝王》になるのも、全ては謎かけ盗賊の計画の一環だってことだね」
NOVA『そうなんだろうか。少なくとも、《奈落の帝王》の顛末は、作者のポール・メイソンのせいにできるが、リサの件は、メイソンもリビングストンもノータッチだろう。そこは当ブログ時空のカオスが転がった結果だと思うがな』
アスト「要は、お前の脳内がカオスだってことじゃないか」
NOVA『次回は、このカオスをうまく収拾しないとな。準備編はその3で終了して、それから攻略記事の本編に移る予定』
(当記事 完)